商品のご案内 地域の皆様と共に 稚内しんきんについて ディスクロージャー 店舗・ATM
貯める・備える 借りる 便利なサービス 手数料 最新金利情報
地域貢献活動 ズームアップ北 いいもの見つけた わが町じまん マチコミクチコミ取材班 温泉マップ 北の観光スポット写真集 リンク集
当庫概要 信条・マークコンセプト 沿革・あゆみ 経営方針 組織図 営業地域 採用情報
平成20年度上半期経営内容公開 平成20年度経営内容公開 第65期事業報告書ミニディスクロージャー
店舗・ATM一覧 店舗・ATM一覧印刷用ページ ATM業務・取扱時間
ホーム 地域の皆様と共に ズームアップ北 最新記事
ズ−ムアップ北
最新記事
バックナンバー
 ズームアップ北
〜 札幌市西区 〜
Vol.78/平成21年11月発行
はなれているのに、ひとつにとけこんでゆく
ひとつにとけこみながらも、また、はなれてゆく
あいまいな境域を越える漆黒の世界。
漆のイメージを打ち破る、漆
作品。
渡邊希
漆造形家
渡邊 希さん
1981年 札幌市生まれ。
2004年 東北芸術工科大学院 芸術工学研究科修士課程 修了
2006年

東北芸術工科大学大学院 芸術工学研究科芸術文化専攻 修了

青森県 津軽塗技術研修所 修了

2007年

塗師 松山継道氏に師事、津軽塗紋紗技法の技術指導を受ける

「第十五回 漆の美展」(東京)にて日本特用林産振興会会長賞受賞。他の賞を著明な名匠が独占する中、大きな話題を呼ぶ。

2008年 8月 初個展を札幌「大丸藤井セントラル」にて開催
2009年 5月 「ギャラリー門馬 & ANNEX」(札幌)にて2回目の個展
2009年 11-12月 「ギャラリー COEXIST」(東京台東区)で個展予定
 漆黒とは、この世界において最も深い黒を指す言葉。文字通り、語源は「うるし」です。漆の黒は、インクで刷られた紙やテレビやパソコンのモニターで表現しうるものではありません。その漆黒の世界で、従来の漆のイメージや概念をくつがえし、漆の新しいフォルムを時に楽しく提示し、また時には驚きをもって漆の可能性を提起してくれる、大胆かつ緻密な「渡邊希の世界」。そんな作品の印象や紹介は少し後回しにして・・・。

 な、何と、長い髪をゆらし颯爽と現れた渡邊希さんは、まさに漆黒の黒髪をしているではありませんか。聞けば、漆塗りに不可欠な道具「ハケは人間の髪の毛を使う」そうで、現代の名匠と呼ばれ、文化庁の保護事業となる国宝修理に貢献する知る人ぞ知る「漆刷毛師 九世 泉清吉氏先生に切ってもらうために腰近くまで伸ばしている」のです。先生も伝統工芸の世界に身を置く若手の活動を応援してくれているとのことで、髪の毛一つにも漆造形家としての決意が秘められ、同時に周囲の期待度もよく分かるエピソードです。

 稚内、および新しく開設となる琴似支店との関係も少なくなく、アトリエがあるのは西区。母親は稚内市出身で、子どもの頃は夏休み中に何度も祖母を訪ねて稚内へ。かつて稚内公園のタロジロの石碑付近にあった「びっくりハウスのマジックミラーが大好きだった」といまでも鮮明に記憶しています。また、数年前に「稚内の曾祖父が欄間職人だった」と知ったそうで、祖母曰く「希はお爺ちゃんの血を引いたのかな」。まさしくそのDNAを受け継いだような気がします。

 漆づくりの工程は専門誌に譲るとして、彼女の心の中には、閉じられた時空間から「漆」で超越しようとする独自な作家性がすでに胎動しているように思います。

「skin」と「乾漆スツール」
 「青森で漆の修行をした」、個展名が「うるし恋しなまめかし」だったと聞いて、すぐに棟方志功を連想しました。青森出身で美術界に衝撃を走らせ、見る者の度肝を抜いた「大和し美(うるわ)し」の一連の作品を。当時おそらく初めて目にした人々は「なんだこれは」「絵よりも文字が多いじゃないか」「絵のようで絵ではない、書のようで書ではない」「果たしてこれは美術、芸術と呼べるのか」などと思ったに違いないのです、しかしそれらをすべて超越した作品であったから、時代を超えて高い評価を得ているのでしょう。

 渡邊希さんは、どこからどう見ても若く美しい現代の女性。しかし、その心の奥では、どれほどのマグマがたぎり、そして泉を渇望しているのでしょうか。見た目には知的でエレガントであるだけに、それを計り知る手がかりは作品だけですが、彼女の作品もまたある種の人々から「なんだあれは」「たくさん空いた穴に意味があるのか」「なぜ漆でこんなカタチができるのか」「これは漆工芸と呼べるのか」などと必ずや批評されたことでしょう。しかし彼女は動じません。幾度も幾度も「塗っては磨き」を繰り返すことによって、はじめて得られる強烈な鏡面塗膜は漆だからこそ成せる技であり、仮にその作品から漆を剥ぎ取ったとすると、むしろそこには極めて優雅でたっぷりとした肉感的な造形美が丸裸になるのかも知れません。

 二人の類似性は他にもあります。黒、そして赤の色使い。民芸や工芸の中にも世の実用美・様式美を越えたところの芸術が存在することを知っていること。さらに、志功の場合は神懸かり的に彫ったと思われがちですが「板画の道で最も肝要なことは、何より板性質の根本を把握すると云うことです」の言葉からも分かるように、素材のなんたるかを見極め、基本と技術の錬磨を怠らなかったのです。彼女も履歴を見ると明らかなように、津軽塗技術研修所を経て著名な塗師 松山継道先生のもとで技術指導を受ける(盗むといった表現の方が適切か)など、漆塗りの基礎を身体に叩き込むことに歳月を注いだのです。それは、いかなるアート作品であっても「うるしである以上、伝統に裏打ちされたものでなければ意味はないし、高いクオリティをキープすることはできない」と考えたからに他ならないでしょう。

 さて「渡邊希の世界」を解説することは余り意味のないこと(作品を見るのがいちばん)だと思いますが、いくつか大きな特徴を示すことができます。東西を問わず美術やアートの歴史には、見る者の目をあざむいたり、裏切ったり、笑わせてくれるような、はぐらかしの仕掛けをもった作品の系譜が存在します。あいまいな境界が別次元への入口となったり、視覚のトリックを利用した「だまし絵」的系譜は例えばマグリットやダリ、エッシャーといった巨匠たちにも顕著なもので、彼女のいくつかの作品にはその意図が感じられます。
「Humpty Dumpty」
2点とも同一作品
角度による見え方の違い

 「Humpty Dumpty」シリーズは、真正面から見ると単なる四角い真っ黒な平面にしか見えません。しかし映り込んだ光がいびつに反射しているため「なにか変だ」と直感させるのですが、はじめて見た人は「凹んでいる何かが浮いているのか?」と思って近づいて行き、角度を変え作品を横から見て唖然。「まるでお尻を突き出しているようじゃありませんか」「まさかあんなに膨れあがっているなんて!」という具合に、平面と立体(三次元曲面)の境界を否応もなく私たちは彷徨うことになります。この作風は網の目のように穴の空いたシリーズで両面へと展開。

 長さに関しては最も大きな作品、まるでキューブリックの映画“2001年宇宙の旅”に出てきた謎の物体モノリスのように縦にぶらさがる「skin」シリーズは、あまりにも漆の黒が鏡面化しているため距離感がつかみにくく、気の毒なことに「実際に鼻をぶつけてしまう人もいるんです」とご本人も言う通り。出っぱっているのか凹んでいるのか分からない作品であり、これもまた見る側があっちから見たり、こっちから見たりと、変化を楽しむ一種の覗きの舞台に引きずり込んでしまうのです。両作品にも言えることですが、映り込む光によって作品の表情が七変化するため、自然光で見ることができる環境でこそ、それら作品のすぐれた面白さを実感できるはず。

「ドロシー」
 網目と化した無数の穴からも光が射し込む、舌のようなカタチをした大きな作品「ドロシー」も、魔界への入口なのかもしれません。なんだか往年の名曲、ローリング・ストーンズの“Paint It Black 黒く塗れ”を思い出しませんか。勝手な和訳は“赤い扉なんか見たくない 黒く塗ってしまいたい/ほかの色はもういらない ぜんぶ黒に変わればいい/明るい夏色の服を着た美少女が通り過ぎる/思わず俺は顔を背けてしまう だって俺はまだ 真っ暗闇を彷徨ってるんだ”。

 それらの作品とはまったく趣の異なった「secret」シリーズは、人間の頭のようなカタチをベースに、やわらかいコブをいくつももった作品。いたるところに穴が空いており、あえて内部を透かして見えるようにした不思議な造形です。ここでは、表層の外側の反射した光が内側に映り込み、彼女の作品の中でも最も複雑な乱反射を宿します。これのモチーフの原型は、さらに複雑怪奇を極め、鳥の足の上に同様の小さな頭と胴体を乗せ、内側には螺鈿(らでん)で蒔絵(まきえ)を装飾していました。でもある日「裏に絵を描かなくてもいいんじゃないか」と悟り、造形美だけで勝負してみることに。

「secret」
 いずれにしても、これらの面白さ、斬新さ、そして漆そのものの確かなクオリティの高さは、これ以上誌面で述べようがありません。実物を目にすると、もしかするとそこには、かつて彼女自身が大好きだったマジックミラーのような摩訶不思議な楽しさがあったり、くり抜かれた透かしには欄間の造り込みの美しさを見ることができるかも知れません。

 札幌ではこれまで、大丸藤井セントラル、個人住宅を改造した新発想のギャラリー門馬&ANNEXと2回の個展で発表。次回は東京都台東区ギャラリーCOEXISTにて予定しています。※詳細はサイトを参照。

 「私の作品の大きな特徴は、漆の一般的イメージで知られる『木』ではなく『乾漆技法による麻布と漆での造形』という点にあります。大型の作品ですが、非常に軽量で有機的なカタチを成形できるのです。古来から仏像づくりに用いられてきた技法を活かし、現代の建築空間へのアートとして発信すること。漆と建築、そして人が関わり、すべてが融合することで生まれる空間の提案をテーマとしています。なぜ、乾漆にこだわるのか。それは伝統後術をもって発信する事に意味があるからだと信じているからなのです。後々まで修復ができる漆によって、後世に残しても恥ずかしくない仕事をしていきたい−」。近いうちにフランス、カナダなどで海外展も行うとのことで、これからも札幌発のURUSHIを世界ヘ向けて発信し続けていくことでしょう。
個展のスケジュール、 新作情報などは www.nozomiwatanabe.com

□ 写真/いずれも ギャラリー門馬 & ANNEX にて

ページのトップへ戻る
動作環境について