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〜 遠別町 〜
Vol.86/平成23年11月発行
農業高校への新入生獲得のために活性化プロジェクトに「羊」を活用。


北海道遠別農業高等学校 校長
菅原 修治さん

昭和29(1954)年8月8日生まれ。猿払村出身。旭川工業高校を卒業後、東京の日本住宅公団に勤務し学費を蓄える。20歳の時、日本大学理工学部に入学。勤労青年として仕事を続けながら夜間に同大に通い卒業。教員生活は名寄工業高校から始まり、遠別農業高校着任前は札幌琴似工業高校教頭。担当教科は建築というユニークな経歴を持つ。

遠別農業高校って?
かつては「日本最北の農業高校」、「北海道で唯一海の見える農業高校」がキャッチフレーズでしたが、最近では「遠農マルシェ」そして「羊のシンボルマーク」でお馴染みの遠別農業高校。創立は昭和27(1952)年。来年でちょうど創立60周年を迎える。学科は生産科学科の単科。2年進級時に、大地に挑むエキスパートをめざす「生産科学コース」か、食品加工のスペシャリストをめざす「食品科学コース」のいずれかを選択。

http://www.enbetsunougyou.hokkaido-c.ed.jp/

出荷直前は、最後の餌をやることの悲しみに耐えて…。
出産から飼育、出荷まであまりにも学ぶことが多い。
樋口かおり著 『羊に名前をつけてしまった少年』
2011年1月ブロンズ新社刊

北海道遠別農業高等学校の現役教師が書いた「命とむきあう少年」の物語。食べられるために、殺されるために生まれてきた羊たちの命。「命とは? 食べるとは? 生きるとは?」葛藤する少年の心を力強く感動的に描いた作品です。

樋口かおり教諭は今春、十勝管内の新得高等学校へ赴任。

挿画は旭山動物園の元飼育員、絵本作家のあべ弘士さん。
本の装丁は遠別町出身の坂川栄治さんに依頼されました。

危機意識を持つことから始めよう。
 今年の3月、名寄農業高等学校(酪農科・生産科学科)が閉校するという事態を迎えました。もはや旭川以北に残された全日制農業高校は、遠別の一校のみ。果たしてこの最後の砦を、遠別のマチは守ることができるのか…。ある在学生は言います「こんなにイイ高校をなくさないで!」。OBも異口同音に「母校の灯を消さないでくれ!」。
 「加速する少子化には太刀打ちできず、危機に直面している高校は全道にたくさんあるのです」。そう話し始めた北海道遠別農業高等学校(以下「遠農」と略)の第19代目となる菅原修治校長先生が着任したのは平成21(2009)年4月のこと。当時を振り返りながら「私が来た頃、新入生はわずか20名でした。そのまま放置しておけばどうなるか・・・。生徒が集まってくる状況に改善しなければ、遠農の未来はないということでもありました」。
 遠農の定員は各学年とも40名。現在1年生は21名。2年生23名。しかし3年生は15名しかおらず、再度20名を下回るようなことが起これば、あるいは…。
 歴代の校長も町長も教育長も、さらに同校の強力な応援団である教育振興会(海外研修渡航費用の全額補助、資格取得の受講料補助、地方出身者用寮費の助成、バス通学者の通学費の援助等を実施)が、それこそ高校存続のために体を張ってきたことを知る菅原校長もまた、目の前に大きく立ちはだかる壁を前にして少しもひるむことなく挑戦を始めました。

何もなければ、つくるしかない。
 「海洋科学技術センター(現海洋研究開発機構)の有人潜水調査船“しんかい2000”で捉えたクラゲの写真を見たことがあります。太陽の光が届かない深海で、クラゲが光っているのです。あの写真が教えてくれました。光が来ないからって愚痴っても何も生まれない。光がないなら自分で光るしかないということを」。
 菅原校長は全生徒と教職員全員に向かってこう言いました。「私達もクラゲに学ぼう!」。
 学校中のみんなが考えました。一人ひとりが光れば遠農も光る。遠農が光ればマチも地域も光る。「遠農を光らせるもの、輝かせるものは何だ?そうだ、ここには羊がいるじゃないか!」。遠農の活性化プロジェクトが動き出しました。
 菅原校長は極めて情熱的かつ、ざっくばらんで話の面白い人。アイデアが豊富であり、マスコミにも自ら進んでどんどん登場し、一人でも多くの人に遠農を宣伝するために汗をかきます。これほど思考が若々しく、フットワークの軽い高校の校長先生が他にいるでしょうか。

面白いと思ったことはやってみよう。 
 菅原校長は矢継ぎ早に次々とアイデアを出しました。
 「旭山動物園で飼育体験をやれないか。提携できることはないか」「せっかく土地があるんだし校舎の前庭に大きな花畑をつくろうじゃないか」「遠農を舞台にした絵本か童話を出版できないか」「羊のデザインを学校のシンボルマークにしよう」「士別や焼尻に匹敵する遠農ブランドのおいしい羊をつくろう」「ブランド化するには8頭では羊が足りない。あと10頭位ほしいがどうする?」。そして「実習でつくった商品を評価してもらうため、校庭の中にアンテナショップをつくってみてはどうだろう?」。

 そうして、そんなアイデアをことごとく実現してきたのです。いくつか実例で示すと、国語の教師である樋口かおり教諭著『羊に名前をつけてしまった少年』を出版。挿画は、旭山動物園の元飼育員の絵本作家・あべ弘士さん。装丁には、遠別出身の装丁家・坂川栄治さんに依頼。 食べられるために、殺されるために生まれてきた羊たちの命をめぐり、葛藤する少年の心を力強く感動的に描いた作品です。「命とは?食べるとは?生きるとは?」同校にモデルが実在しただけに非常にリアルな問題として一人ひとりに問いかけます。
 「道教委に羊を10頭買ってほしいと掛けあったのですが、そんなお金はありませんと、むげもなく断られてしまいました。だからといって計画を断念するわけにはいきません。そこで思いついたのが牧場や農場と契約を結びレンタルで借りてくることでした」。その結果、士別市の「かわにしの丘しずお農場」からサフォーク種を。羽幌町営焼尻めん羊牧場を運営する「萌州ファーム」から名高いプレ・サレを導入。同校では現在17頭ほどのサフォーク種を飼育し、焼尻島産サフォーク種と士別産サフォーク種の交配をめざし、独自の「遠農ブランド」の羊肉を生みだす計画をすすめ、来春には待望の子ヒツジが誕生する予定です。
 関連して、同校教育振興会が本年9月に第一回目となる「遠農羊まつり」を開催し、士別産、焼尻産、そして遠農の3農場のラム肉を食べ比べてもらうイベントを成功させ、大きな話題を呼びました。
 さらに予定通り校庭内にアンテナショップを設置し定期的に「遠農マルシェ」を実施。地産地消をキーワードにラムシチューやホタテカレー(いずれもレトルト)をはじめソーセージ、焼き立てパンやピザ、シソ飲料なども好評のようです。

素晴らしい教育は、ここにもある。
 「農業の素晴らしさは、どんな子どもが種をまいても、間違いなく芽が出るということにあります。これは他のどんな教育よりも確かな教育になると確信しています。生徒たちだけではなく日頃から先生たちにもよく言っているのですが、何よりも子どもを褒めてあげることができる材料(生きた教材)を持っていることに、教育者としてその喜びに気づかなければいけないと」指摘します。「農業を題材にして命を育てる。あるいはいただくという人間が生きていく上で最も大切なことを体験して学べるのですから、農業を題材とした教育こそ教育の原点だと思っています」。
 羊をテーマとした活性化プロジェクトに全校を挙げて取り組むと生徒たちにも大きな変化が見られるようになりました。「ハッキリと学校の景色が変わってきました。生徒のモチベーションが高まってきました。例えば牧草を刈って乾燥庫へ運ぶ作業は全校生徒で行うのですが、イヤがる者は一人もいません。みんなニコニコと埃まみれになって。避難訓練でも羊のことを思うと真剣になるのです」。同時に新入生確保のための宣伝にも効果が現れつつあります。「地元からの新入生が増えました。地方出身者用の寮不足を解消するために町も地域の人々も応援してくれるようになりました。素晴らしい教育はどこにあリますか?札幌にありますか?一つだけ明確に言えることは、本物の教育はここにもあるということです。」
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